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肥前陶磁器あれこれ~

オールド香蘭社、オールド深川、古伊万里、平戸焼などを集めています。

 

神の御業か、悪魔の仕業か ~古平戸 染付龍透彫龍文酒注~ 

それはある晴れた春の日。

スケジュールが突然空いたダンナさんと連れ立って、
古都フィラデルフィアまで足を延ばした日のことでした。
ブランチのエッグベネディクトを食べて、ルンルンと市街地をウロウロしていたら、
ダンナが突然、”例の骨董屋を覗こうよ!”と言い出しました。

例の骨董や、というのは染付龍山水文酒注を以前購入したお店です。

店に入るとロクサーヌが、
”あら!いいところにきたわね~!いい平戸がはいったのよ。きっと気に入るわ!”とのこと。

”ふ~ん、そんなにいいものが度々出てくるもんかね?”と内心思いつつ
あたりを物色する私の耳に、ダンナのコーフンした声が・・・・

”オーマイガッ!!!”

ふん?と振り返って見た私も思わず、

”オーマイガッ!!!!”

そこにはすごいものが・・・・

平戸焼の酒注。
どうみても、ものすごい高級磁器・・・

hirado dragon 1

それにしても、こんなものがなぜこんなところにあるのでしょう?

恐る恐る尋ねる私。

”これは結構(←足元を見られないように抑え気味に)いいけど、いくら?”
(ドキドキ・・・・}

”これはね、〇〇〇ドルよ~”

むっ!高い。
でも、買えない値段ではない。

というかこんなの絶対今後お目にかかれない!

・・・と、そんな骨董病ならではの症状も手伝って・・・

値切るしかないなぁ、でもどうやって値切ろうかな、と考えていると

ダンナが突然、
”ロクサーヌ、キャッシュ(現金)で払うから〇〇〇で売ってくれ!”と
突然交渉開始・・・・!?

エッ?もうちょっと値切れば?と思うケチな根性の私を尻目に
あっという間に交渉成立。
そのままATMに走るダンナでありました。


そうして、この素晴らしい平戸焼は我が家へやってきたのでした。

いらっしゃいませ。

hirado dragon 2

まずはこのすごい透かし彫りをご覧ください。

籠目、または六芒星と呼ばれる魔よけで有名な文様です。
平戸焼の透かし彫りにはよく使われるパターンですね。 

hirado dragon 3

この透かし彫り、なにがすごいかと言いますと、この線の鋭さ。
非常に鋭利に彫られています。

hirado dragon 4

反対側は別の文様が・・・・

籠目はもとは魔よけに使われる麻の模様からきていますが
裏の模様は、麻の模様の変形のようです。
おなじ六角形の幾何学模様ですが籠目とはちがうパターンですね。


平戸焼の透かし彫りでは、美術館所蔵の物、本などで見たものを含め、
この変形麻文様はみたことがありません。

hirado dragon 5

龍型の酒注ですが、本体には龍の文様が描いてあります。
いわゆる雲竜ですね。

後ろから見ると・・・こんなです。

hirado dragon 6

では、前からも見てみましょう。

hirado dragon 7

龍の細工物に雲竜文とは・・・

hirado dragon 8

蓋には、鶴と松が描かれています。
平戸焼ならではの繊細な絵付けです。

hirado dragon 9

さてこの龍型酒注、これだけ立派な細工物にはさすがにメトロポリタン美術館や北米の
名だたる美術館でもなかなかお目にかかれません。

特筆すべきは、やはりこの透かし彫りだと思います。

透かし彫りの技術は平戸焼を特徴付けるものの一つです。
天草陶石と網代陶石を合わせることで、造形しやすいだけでなく
磁器へ施す彫刻を可能にするわけですが、この彫刻の技術の高さは
他の平戸焼と比較することではっきりとわかります。

下の写真は以前紹介した、幕末・明治の色絵冠型香炉です。

おそらく有田で絵付けされたものですが、もともとの器は三川内で焼かれたものです。
この香炉にも、例の籠目文様の透かし彫りが施されています。

ちなみに、この手の有田・平戸合作の色絵香炉の中では
これはきちんと透かし彫りがされているほうなのですが・・・・

hirado dragon 10

改めて、この龍形酒注の透かし彫りと比べてみてください。

hirado dragon 11

比較にならない技術の高さがはっきりと見て取れると思います。

それにしてもこの透かし彫りの技術ときたら・・・・
並外れた技術というか、まるで神技です。

ダンナさん曰く、”こういうのは中国ではDevil's work(悪魔の仕事)というんだよ”

う~む。

神業と褒め称えるべきか、悪魔の仕業と畏敬の念を持つべきか・・・・
何れにしても、超人的な技術であることにまちがいはありません。


さて、海外に住む私にとって、平戸焼の魅力はその造形美の説明のしやすさにあります。

古伊万里も好きな私ですが、外国人と話すときにその魅力を説明するのは
いつも難しいな、と思ってしまいます。
例えば蕎麦猪口をみせて、その柄のシンプルさを粋なのだ、と説明しても、
なかなかわかってもらえません。
元禄期のものは別にして、古伊万里の魅力というのは
やっぱり日本人独特の美的概念によるものだなぁ~、と改めて感じるわけです。

その点、平戸焼は説明がしやすいと思います。
まずはその造形の技術の高さ。
いかに中国で造られる日本陶磁器の贋作が優秀だろうと、
こんな透かし彫りは絶対にコピーできるものではありません。

これだけの技術をもつ窯は、世界がいかに大きいといえど、
明・清時代の官窯くらいなのです。
この”絶対にまねのできない造形の難しさからくる美しさ”というのは
どんな文化圏に住んでいる人にも共通して理解できるものです。

同じことが平戸焼(全盛期)の絵付けにも言えると思います。
鍋島は確かに美しいと思いますが、平戸焼は、陶磁器の王様である
チャイナと比べても全くひけを取りません。

この”文化の違いに左右されない普遍的な美しさ”というのが平戸の魅力だと思います。

hirado dragon 12

もうちょっとこの龍形酒注を見てみましょう。

これはおそらく幕末くらいに造られたもののようですので
明治以降に輸出目的で造られた酒注と比べると、
造形がかなり繊細です。

hirado dragon 13

これは以前紹介した酒注ですね。
龍の頭部のアップです。

hirado dragon 14

比べて、こちらの龍の頭部は造りが細かいことがわかると思います。
同じような龍ですが、しっかり眉毛(?)やひげがついていて、
顔もはっきりと彫られています。

hirado dragon 15

個々で見ると、どれも美しい平戸焼ですが、こうして比較すると
技術にかなりの差があることがおわかりいただけると思います。

hirado dragon 16

さらにもう一つだけ、特筆すべき点を書いておこうと思います。

ご覧の通り、酒注の胴には透かし彫りが入っていますが、中をみると
ちゃんと二重構造になっているので液体を入れてもこぼれることはありません。

このdouble barrel の技術もまたこの作品のすごさを物語っていると思います。

平戸焼の本によると、まず外側のポットの部分の透かし彫りをいれて
その後に内側にもう一つ容器を入れて焼いたのだそうです。

大量生産はまちがいなくされていないと思いますが、
一体誰のために作られたものなのか、非常に気になります。

hirado dragon 17

造ったのは、今村十九郎(?)さん?
名工・今村六郎さんではないのかな・・・?

はて、だれなのでしょう?

今村家は云わずと知れた三川内・平戸の名門窯元です。
平戸焼の陶祖である朝鮮陶工の血筋である今村家に関わる陶工であろうと
思われますが、よくわかりません。

恥ずかしながら、まだまだリサーチが必要です。

hirado dragon 18

全体像。

hirado dragon 19

反対側。

hirado dragon 20

斜めから・・・

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雲竜文と籠目の透かし彫り。

hirado dragon 22

蓋にもちゃんと文様が・・・・

hirado dragon 23

凝った意匠ですが、全体的にはすっきりとしています。

中国陶磁器の影響を強く受けた平戸焼ならではですね。
洗練の極みです。

hirado dragon 24

hirado dragon 25

hirado dragon 26

さて私事ですが、もうすぐ都合により東海岸を離れることになりました。

引越しの時に、この平戸焼をどうやって運ぼうか、
毎日思案する日々です・・・・

hirado dragon 27

頭イタイ・・・・・

次回は初心にかえって(?)、明治の香蘭社のものを紹介したいと思います。


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Category: 平戸焼

tb 0 : cm 9   

Comments

この平戸すごいですね、ビックリです。
この透かし彫り、どうしたら作れるの?。
このような作品はたぶん日本には無いのでは?。
どこかの美術館で「平戸特集」の企画があるときは「目玉作品」として展示してください。
たいへん良いものをみせていただきました。
でも、この平戸焼の購入はお財布だいじょうぶでしたか。

kahohira #- | URL | 2014/05/14 05:22 [edit]

Kahohiraさま、

こんにちは。
コメントありがとうございます。
そうですね~、この透かし彫りの技術、
ため息が出ます。
似たような作品にはまだお目にかかったことは
ありませんが、強いて言えば、似た様な透かし彫りは
長崎文化歴史博物館所蔵の染付冠形香炉が
近いかな、と思います。こちらは1700年代に造られたそうですが
この酒注はそれよりは新しいと思います。

お財布ですね~v-14
私にとってはイタイ出費ですが、まぁLVのキャンバスバッグくらいの
値段なので、日本の骨董市場の基準で考えると
安いのかな??

この骨董屋は今後はチャイナを専門に扱いたいので
こんな名品をあっさりとNYのオークションに出してしまったそうです。
喜ぶべきか、悲しむべきか・・・喜ぶべきでしょうね(笑)

Michnoski #- | URL | 2014/05/14 10:37 [edit]

素晴らしい

いつも楽しく拝見させて頂いております。
平戸焼の里、三川内町のすぐ近くに住んでいる者です。
普段は読んでるだけの私でしたが、
今回はあまりの興奮に書き込みを止める事が出来ませんでした!

凄い透かしですね!染付の絵も素晴らしいですし、三川内や有田の美術館を訪れても流石にこのレベルは見当たりません!銘から察するに恐らく明治の物ではないかと思いますが一度地元の学芸員にどこの窯でいつ造られた物なのか意見を尋ねてみたいです。凄い宝物を手にされましたね!

(追記)
気になって確認しましたが近現代肥前陶磁銘款集に
今村十九郎の銘はありませんでした。
ますます気になります(笑)
現在の三川内にも、無名でありながら有名窯元を凌ぐ
素晴らしい仕事をなさる陶工さんがいらっしゃいます。
十九郎さんもそうだったのかもしれませんね。

唐子くん #6svPciqE | URL | 2014/05/23 00:32 [edit]

唐子くん様、

初コメントありがとうございます。
じげもんの方からコメントを頂けるとは!
これを機会に今後もコメントいただけると嬉しいです。

そうですね~、三川内や九陶でもこの手は見かけませんね。
やはり明治でしょうか?
技術的に優れているので、幕末から明治初期かな、と思えますが・・・
裏に銘があるので、次回里帰りの折に学芸員さんにアポをとってみようか
と思います。
その後は、時代屋にレモンステーキを食べに直行ですかね~(笑)

Michnoski #- | URL | 2014/05/23 08:10 [edit]

唐子くん様、

そうなんですよ~。最初は銘があるのですぐ身元(?)が判ると思ったのに
銘款集に載っていないとは!

一番近いのは、今村六郎(ろくろう)かな、と思うのですが・・・
今村十九郎(とくろう(?)

江戸後期・明治初期の平戸の輸出物の銘には
誤字が多いので、そのあたりも問題ですね。

現代の三川内の窯元も良い仕事をされていますよね。
平戸窯悦山さんの虫かごなどは絶句!ですよね~

三川内は高級磁器なので、経営が大変だそうですが
ああいうすごい作品は案外お金持ちの中国人は
欲しがると思うのですが・・・・

Michnoski #- | URL | 2014/05/24 04:02 [edit]

Michnoski様

よく見たら他記事で本棚の写真があり芝コレなどに混じりしっかり銘款集も並んでいました。。。既に調べた上で投稿されていたのにお恥ずかしい・・・

時代は、仰るように江戸後期~明治初期の作品でしょうか。
いずれにしても、このレベルの細工物を造る職人さんは今の日本にはいないかもしれませんね。写真を見る度に鼻血が吹き出て困っています(°m°;)

Michnoski様が手にされ自分も嬉しいです。そのまま他国に埋もれ、下手をすればその価値が分からない人に粗末に扱われていたかもしれないと思うとぞっとしますね。ありがとうございます(TдT)

唐子くん #6svPciqE | URL | 2014/05/24 19:12 [edit]

唐子くん様

近現代肥前陶磁銘款集は平戸・古伊万里ファンにとっては
バイブルですよねv-14
でもこれに載っていないということは、この人の作品はあまり
出回っていないということでしょうか?

平戸や亀山系の輸出物に関しては、日本の収集家にとっても
まだ未知の部分があるのかもしれませんね。
でもこの手の作品は、海外でもあまり見かけないので気になります。

この酒注もいつかは里帰りさせたいと思っています。
その日まで、大切に保管しなくっちゃ・・・
責任重大ですね(笑)

Michnoski #- | URL | 2014/05/25 04:34 [edit]

こんにちは。

素晴らしい物を手に入れられましたね。
素人がコメントを出来る余地は無いのですが、この作品の素晴らしさは
私にも分かりますね。
これだけの素晴らしい造形技術を目の当たりにすると、(ちょっとオーバーかも
しれませんが)日本人として、世界に対して誇らしくさえ思わされますね。

随分ご無沙汰していましたが、この一月以上ブログから完全に離れていた為
訪問が出来ませんでした。家内が訪問させて頂き、Michnoskiさんの記事が
出ている事は聴いていたのですが、今日やっと噂の品を見せて頂いた次第です。

お引越しをされるそうですが、(既にされたのかも知れませんが・・・)やはり
アメリカ内の移動なのでしょうか?

今後も楽しみにしていますよ。

#- | URL | 2014/06/08 09:34 [edit]

ご無沙汰しています。
お元気でしたか?
ブログの更新がないのでどうしていらっしゃるかなぁ?と
思っていました。

コメント、ありがとうございます。
この酒注の造形を褒めていただいて嬉しいです。
そうですね。平戸は海外で人気があるのは
このあたりの造形のすばらしさではないかな、と思います。
今後は、これ以上の平戸はちょっとお見せすることは
できそうにありませんが・・・(笑)
まぁ、まだ珍品がいくつかありますので、ご期待(?)くださいね。

引越しはもうすぐなので、そろそろプチプチを沢山買いこんで
荷造りを始めました。
今度は中西部に住むことになりそうです・・・
まぁ、すぐに東海岸か西海岸にもどって
来たいと思っていますけど・・・・・
ブログのほうも、ゆっくりではありますがアップしていきたいです。

貴ブログの更新も楽しみにしていますよ~

Michnoski #- | URL | 2014/06/08 19:16 [edit]

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