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肥前陶磁器あれこれ~

オールド香蘭社、オールド深川、古伊万里、平戸焼などを集めています。

 

人魚伝説と平戸 

今日は私のコレクションの中でも、とっておきの珍品を紹介したいと思います。

人魚形の古平戸焼です。

Hirado Mermaid 1

平戸焼のひねり物コレクターの方ならすぐお分かりになると思いますが、
これは昨今ではなく、幕末から明治にかけて造られた古平戸です。

ん?
19世紀?
ちょっと変だと思いませんか?

人魚と聞くと、アンデルセンの童話に出てくる人魚姫やドイツのライン川で船乗り達を誘惑する
ローレライなどいわゆるヨーロッパの想像上の生き物を頭に浮かべる方も多いのではないでしょうか?

実は日本にも人魚伝説はいくつもあります。そして平戸焼を支えた松浦藩のお膝元平戸市は
人魚伝説との興味深い関わりがあるのです。

まずは人魚伝説について。

一番有名な若狭の人魚伝説、八百比丘尼の伝説はよく知られた話ですね。
その昔、若狭の国である漁師が人魚を捕らえ、その肉を村の庄屋が村人に振舞いました。
人魚の肉を喰らうと永遠の命が得られるという伝説があったためでしたが、みな気味悪がって
食べずにこっそり捨ててしまいました。しかしある男の娘は、父が持ち帰って棄てるはずの
人魚の肉を食べてしまい、不死の体となってしまいました。
娘はその後老いることなく、しかし孤独な身の上となってしまったそうです。
この話を基にして、漫画うる星やつらの高橋るみこが短編を書いていたと思います。

よくよく考えてみると、海に囲まれた日本人が人魚という想像上の生き物を
考えなかったわけはありませんね。
近代以降の西洋化のせいでなんでもかんでも西洋のものだと思い込んでしまうのは
全くよくないな、と反省しきりです。

Hirado Mermaid 2

さて、話を平戸に戻します。

松浦藩は江戸時代あらゆる藩の中でも、最も学問に力を入れた藩の一つでした。
実は山鹿素行の弟子が長年藩の学問の発展に携わっていた経緯があります。
(ちなみにかの長州藩の吉田松陰も、兵法を学ぶための最初の留学先に選んだのは平戸でした。)

そんな教養高い平戸藩の君主の中でもとりわけ秀でていたのは第九代藩主松浦静山(清)です。
松浦静山といえば江戸時代の生活や文化、慣習などを書きとめた随筆、甲子夜話が有名ですね。
その甲子夜話に、なんと人魚の話が出てきます。

一つ目の話は玄海灘で伯父夫婦が人魚を見たというものです。
静山の伯父夫婦が平戸から江戸へ向かう途中、玄界灘を船で渡った時
海中から人魚が現われたのを目撃したそうです。

顔が青白く髪が赤茶色であったためひどく奇妙なものでした。
最初は、海女かもしれないと舟人と共に
言い合っていたのですが船は陸地よりかなり離れた沖にあり
そんなはずもありません。
そうこう言い合っているうちに、女は身を翻し海の中へ潜ったのですが
あろうことか、その身を翻した女の体は魚体であり足の代わりに魚の尾があったのだそうです。

Hirado Mermaid 5

この話を書いた後、静山はさらに別の人から讃岐に出没した人魚の話を聞きました。

二つ目の話はこうです。

藩の足軽が平戸から江戸へいく途中、讃岐の海で3メートルほどの
黄色い魚が潮の流れに逆らって泳いでいるのを目撃したそうです。
しかしこの魚、頭部は魚ではなく髪の長い女性のようなのです。
足軽は気味悪く思い、船頭に尋ねますが船のものはみな知らないというのです。
このあたりの海ではよく出没するのか、みなたたりを恐れてか示し合わせたように
人魚のことを黙殺したのだそうです。

この二つの話から受ける印象は、人魚の存在は船乗りの間では案外知られたもののようだった
ということです。

このような話を裏付けるわけではありませんが、興味深いことに
最初の話のあった玄界灘のある福岡には実際に人魚の骨を祀った寺があります。
福岡市博多区にある竜宮寺には、鎌倉時代に捕まえたと言われる人魚の骨が
今も残っているそうです。

玄界灘には人魚が本当にいたのでしょうか?

Hirado Mermaid 6

さて、面白いのはここからです。
この人魚伝説、江戸時代中期から後期にかけて、さらにまことしやかに肥前の国で
人々の口にのぼるようになるのです。

1819年(文政時代)、肥前国平戸近辺に龍神の使者であるという姫魚が現われ
驚くべきことにその後江戸時代の日本を震撼させるコレラの流行を予言したというのです。
しかし同時に、この姫魚は自分の写し絵を家の門に張っておけばコレラには感染せずにすむ、と言ったそうです。

この話に全く良く似たものが同じ時期、同じ肥前の国で広まります。
竜宮の使いである、二つの角をもった人の顔を持つ魚(神社姫)が同じように
コレラの流行を予言します。これ以前、肥後の国で同じく疫病を予言したアマビエという
鳥の嘴をもった人魚の話があります。

こうしてみるといろんな人魚伝説がありますね。
興味をそそられるのは、このような話が九州で多いこと、そして
人魚という想像上の生き物(妖怪)は不吉でもあり吉兆でもあるということです。
特に九州に現われた人魚伝説に限って言えば、予言と除災というあるいみ縁起の良い使者であると
いえなくもありません。

Hirado Mermaid 7

このような肥前平戸と人魚伝説の係わり合いを考えると、古平戸焼の人魚、というのも
そう変ではないかも・・・?

とにかくこういう珍しいものを造る文化的な土台が平戸松浦藩にあったことは確かです。

Hirado Mermaid 8

それにしても一体誰がどんな目的でこんなものを造ったのでしょう?

古平戸には書道の道具が多いので、筆置きかな?

この人魚、平戸のひねりものらしく随分精巧に造られています。

Hirado Mermaid 9

この人魚の精巧さは写真でもわかると思います。
手のひらに乗るくらい小さいのに、ちゃんと手のひらのしわまで描いてあるんですよ。
顔も、平戸焼らしくちゃんと目の部分がくりぬいてあります。
横顔の造形も良いものです。
そして魚身ですが、こちらも驚くほど精巧に造られています。
鱗は一つ一つ型が描かれ、色も魚さながらグラデーションを描くように彩られています。

Hirado Mermaid 10

Hirado Mermaid 4

Hirado Mermaid 12

さて、このお宝の出身はやはりイギリスでした。
場所はブリストル、ロンドンからウェールズに向かう列車が途中で止まる港町がブリストルです。
当然ながら、昔は海外からの品々がこのブリストル港に上げられ、ロンドンなどに列車で運ばれました。


Hirado Mermaid 13

この人魚、かわいい、というよりも、むしろコワイ・・・というコワカワ系です。
でも最初に手に取った時の感動は忘れません・・・

うわ!カワイイ!と思わずうなってしまいました(笑)。


Hirado Mermaid 3

でもね・・・夢に出てきそうなんですよ。

・・やっぱりコワイ・・?

まぁいいや。

とにもかくにも、ようこそ我が家へイラッシャイマシタ。

Hirado Mermaid 14

最後に、平戸ブラザーズと一緒にチーズ!


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Category: 平戸焼

tb 0 : cm 5   

Comments

こんにちは。
平戸人魚おもしろいものですね、初めて見ました。
人魚は女性と思っていたけどこれはお侍様の人魚ですか?
なにか謂れがあるのでしょうね、そう言うことを調べるのも楽しいですよね。
この作品は紙押え(文鎮)でしょうかね?。
私は平戸焼で気になっている作品があるのですが「三味線を弾く、ろくろ首女」
と言われる水滴です、平戸の本で見たのですが現品は見ていません、探しているのですが出会いません。Michnoskiさまが海外のお宝市等で見かけたら
購入が無理なら写真でも可ですのでブログに載せてください。
次の投稿も期待しています。 KAHOHIRAより。

kahohira #- | URL | 2013/09/15 00:46 [edit]

Kahohiraさま、

コメントありがとうございます。
そうなんですよ~。私も初めて見たときはビックリしました。
さすがの野田さんの本にも載ってないのでは?
最初は紙置きかな、と思いましたが、サイズが小さいんですよね。
前回動いたのは1993年クリスティーズのオークションハウスだった
ので、今回は必死(笑)の思いでゲットしました。
三味線を弾くろくろ首の水滴も良いですね。
長崎諫早のカピタンさんが扱っていたそうですが、どこかの博物館に
売ったというようなことをブログに書いていました。
あれも珍品ですね。平戸のひねりものは中毒になりますね~v-12

Michnoski #- | URL | 2013/09/15 11:22 [edit]

書き忘れていました。
この人魚、女性だと思いますよ。
胸のあたりに微妙にそうとわかるふくらみが・・・
日本の人魚姫はあまり女性的な
魅力はなさそうですね(笑)

Michnoski #- | URL | 2013/09/16 05:26 [edit]

胸の膨らみはあるのに、頭部分は落武者風・・・
とってもユニークだと思います。
人魚と言うと、小川未明の「赤い蝋燭と人魚」を思い出します。
もっともこれは、日本海側に伝わる人魚伝説に発想を得た作品らしいですが。

R.I. #- | URL | 2013/09/26 07:55 [edit]

R.I.さん

赤い蝋燭と人魚ですか~。
実はこの有名な童話をまだ読んだことがありませんでした。
コメントを見て、あらすじだけ読んだのですが面白いですね。
今度帰国した時にでも読んでみたいと思います。
それにしても、人魚の持つ吉凶交じり合ったイメージはどの地方へ行こうとも
日本全国同じような感じみたいですね。
あと、日本の人魚はだいたいは女性のようですね・・
たとえ落ち武者の風貌であったとしても・・・(笑)

Michnoski #- | URL | 2013/09/26 18:14 [edit]

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